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Rockfishで角ハイボール

おなじみの銀座「ロックフィッシュ」で、まだ明るい時間からウイスキーのハイボールをちびりちびりと飲む。

この店のハイボールは、いわゆる神戸スタイルで、「三冷」で供される。三冷の三つは、グラス、ウイスキー、炭酸水。冷たいグラスに冷たいウイスキーを入れて、冷たい炭酸水を瓶ごと逆さまにして勢いよく投じる。故に、氷は要らず、マドラーでかき混ぜる必要もない。

泡が静まったら、レモンの皮の小片を手際よく指先で絞り、芳醇なシトラスの油をハイボールの表面に広げる。

口に運ぶと、爽やかなレモンピールの香りのイントロダクションから、程よい刺激の液体が自分から口に入り込んでくるような気がするほど、するするとスムーズに飲めるのだ。

お節介な私は、この店に初めての客を誘った時は、「飲むときにすすらない方がいいです」と進言する。そんんな作法があるわけではないが……。

ハイボールの表面に香りの素が浮いているので、すするとあっという間に香りが口の中に消えてしまうからだ。なので、上唇を液体の水面下に沈めて表面の油を温存しつつ最後まで楽しむことをお勧めするのだ。

大きなお世話なのだが。

何の気なしにカウンターの端っこで立ち飲みしていると、目の前に並べられた本の中に、北杜夫の「どくとるマンボウ昆虫記」が見えた。

随分懐かしいなぁと思いながら、新型コロナウイルス感染拡大防止の対策としてカウンターに設置されたアクリル板のせいで少し窮屈に挟まっているところを、指に力を入れて抜き出してみた。

読むというより、記憶の匂いを蘇らせたくなったのだ。

文中には、可愛らしいイラストレーションが添えられている。その画風が、元サントリーのトリスおじさんを生み出した柳原良平さんに通じるユーモラスで都会的な雰囲気で、そして「この人知ってる!」と感じた。

挿絵のクレジットを見ると、「佐々木侃司」とある。私が大阪芸術大学デザイン学科でグラフィックデザインを先行していた時のイラストレーションの恩師で、映像計画学科(現在の映像学科)の学科長も務められた佐々木先生だ。

彼の自主制作アニメーション、「AHO SITY」が、私の、生まれて初めて出演料をもらった「仕事」になった。二回生の頃だったか、アニメーションのアテレコを仰せつかって自由にやらせてもらって1万円をもらったのだった。

その時も、「オノマトペでやって」と言われ、出鱈目な言語でふざけたら「OK」となった。おまけに、北新地の「酒司にむら」という名店に連れて行ってもらって、大人の飲み方を教えていただいた思い出もある。

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